T.O  T.U

1.オキナワスジボタル
 我々が指宿にオキナワスジボタルがいることを発見したのが,1995年8月6日であった。温泉熱を利用して熱帯の植物を育てている温室横の薮で,すぐ近くに温泉が流れていて,一年中ヘイケボタルが発生していることを確認している所である。右の写真に見るように,体長7ミリほどで体は黒色,前胸背は黄赤色をしている。鹿児島県本土では初めての記録である。その後,1997年7月3日に筆者の一人大村から「オキナワスジボタルがたくさん飛んでいる。」との報告を受けて調査したところ市内各地に発生していることが分かったものである。



2.オキナワスジボタルの生態と分布
 イ.卵から孵化まで
 5月末頃生まれた卵(1メモリ0.4mmだから,0.5〜0.6mm)が,6月17日頃から卵の中に変化が表れた。(右の写真)
 18日には背中の模様とか,ま頭の部分がうっすらと淡いだいだい色に見え,19日には,目がはっきりと見えた。体はまるく螺旋状になっており,ときどき動くのが見える。20日には孵化するのもいた。小さい光が見える。孵化幼虫は,2.2ミリ位で,節はあるがまだでこぼこはない。白く透き通っている。卵から孵化するまでは冬で40日以上,夏は20日くらい,春秋では30日位かかる。
ロ.孵化幼虫から終齢幼虫まで
 下の写真。2ミリほどの孵化幼虫が オカチョウジガイやキセルガイ,コナミキセルガイ,また時にはアズキガイなどを食べ,終齢幼虫の頃には,8.8ミリになる。春から秋までの暖かい雨上がりの夜には,大小の幼虫が,草や土の上を光りながら活発に動いている。右の2つは,貝の中の幼虫。
  
        
ハ.サナギ
 終齢幼虫になると土の中に潜り,何日も動かなくなる。深さは深くても2〜3センチくらいのところで淡い卵色のサナギになる。はじめに目が茶色っぽくなり,次に羽の辺りが,だんだん黒くなり腹部の色が付いていく。さなぎになってから15日前後で羽化する。5月の中旬頃から発生し6月に1回目のピークを迎え,7月からだんだん少なくなり,8,9月はまばらで10月に急に多くなり2回目のピークとなる。



3.発生地の分布と拡大
(色の量は頭数と関係ない。分布の範囲を表している。)
1997年7月
 7月上旬に北町でオキナワスジボタルの生息地を発見した。12日頃ビワ畑の周辺から 竹やぶの辺りまで(約200m)オキナワスジボ夕ルが乱舞していた。オキナワスジボタルの卵は0.5ミリ位で、まるくうすい卵色をしている。コケや落ち葉、朽ちた木に卵を産み付けている。30日位で孵化し,幼虫は2ミリちょっとの体長で,黄色みがかった白い色をしている。気温の高い雨あがりの夜には,大小の幼虫が,草や土の上を光りながら動いている。
1997年8月〜11月
 1997/08/24 2頭 08/26 2頭 09/08 幼虫が畑の草の上(20cm)や土の上に多数出ていた。09/17 3頭 09/24 6頭 09/27 5頭 09/30 15〜20頭 10/01〜3 数頭 10/O5 成虫が畑の草の上で じっとしている。気温が低いためだろう。10/06,7 40〜5O頭 10/09 5O頭 11/13 1頭 11/14 2頭 
 冬の幼虫の生態を調べると ほとんどが落ち葉の中のキセルガイの中に1〜3頭ずつ入っていた。低温や乾燥からも守られるし,また貝の中だと外敵からも守られるためと考えられる。
1998年5月
 1998/05/上旬 田中春彦氏のハウスの外で乱舞。 O5/21 さなぎを発見 O5/23 魚見小で乱舞  
 05/25 北町で乱舞 06/〜 乱舞のピーク 07/−〜08− だんだん少なくなるが まだかなり飛んでいる。(玉利集落でも 数頭飛んでいる。)うすい黄色みがかった蛹が 3日かかって乱舞している生息地でやっと見つかった。蛹は15日ぐらいで羽化する。青白い色で長い間 ぼ−と光っている。魚見小のホタルの乱舞は 昨年の秋 初めて数頭のホタルを確認してから半年後である。飼育した結果では 11月23日の卵が1月1日に孵化し7月頃成虫になった。
1998年10月
 10/06 魚見小 27頭 北町 5頭 五郎ヶ岡 9頭 10/26 五郎ヶ岡 魚見30頭 給食室の裏のバナナ園で乱舞。雨あがりの夜に,魚見小に行くと,星空よりもきれいに,大小の何百匹の幼虫が土の上で光っている。冬は,休眠しているようであまり見られないが1年中切れ目なく幼虫がいる。梅雨時期や暖かい夜は,幼虫が地面を広がりながら一晩で20〜30m移動している。餌(主にオカチョウジガイ)が少なくなったか,または生息地を広げる本能とも考えられる。
1999年5月〜8月
 1999/05/13 魚見小 6頭 05/21,22 五郎ヶ岡 1頭 06/02 北町 あちこちから飛び出す。06/03 五郎ヶ岡 2頭 魚見小 20頭 北町 80頭 五郎ヶ岡 70頭  
 08/O5/− 五郎ヶ岡(田中氏畑)幼虫が星空のように見える。田中氏の所のホタルは10月頃は除草剤の散布で 全滅。隣の畑で 30〜40頭ぐらい飛んでいる。魚見小の給食室の裏は,餌のオカチョウジガイが少なくなったのか,見事に幼虫がいなくなり,隣に発生場所が変わった。初めての確認地でも,半年もすると大量に発生している。餌の枯渇だあろうか,幼虫の移動がみられる。
1999年10月〜
 1999/10/−〜11/28 北町 気温の高い夜には,100頭ものホタルが乱舞している。去年までは近くの竹やぶの辺りに,飛んでいたが,今年はヤシの養成場の下に夏頃まで多くいた。秋には,近くのイヌマキのまわりの草薮にかなりのホタルが発生した。春から秋まで,ホタルが発生しているため,大小の幼虫を一年中見ることができる。餌がなくなると幼虫の移動がみられる。
2000年〜
 2000/〜2001/ 地図の中 餌さえあれば オキナワスジボタルがどこに発生しても不思議ではない。宮、木之下の集落でも多く発生している。
 こうして見てみると,五郎ヶ岡のグリーンファームの裏や近くのハウスの辺りから,だんだん広がっていっていることが分かる。
2001年〜
 2001/05/29 湯の里の中村さんのヤシの下のゴミ捨て場 2〜4頭 魚見小 1頭(ここは少なくなった。)
 6/13 宮の塾の辺りに40〜5O頭 幼虫10。木之下集落一帯に,かなり飛んでいる。昨年飛んでいた所は少なかった。ナセリーの辺りは山の裾の近くの畑に,たくさん飛んでいた。休暇村の施設の所に4頭飛んでいた。06/23 休暇村に15頭飛んでいた。休暇村の辺りを見てみると,魚見岳の裾野にオカチョウジガイが少ないながら確認できた。だから,熱帯植物の落ちた葉っぱ等を食性として貝類が増え,それを追うようにオキナワスジボタルが拡散しているのであろう。
 この調子でいくと,山川町,喜入町へと瞬く間に広がるのではないかと考えられる。加治木でもキセルガイを飼ってみたが,庭先のゴミ捨て場で相当増えたことからすれば,熱帯植物がなくても増えるのであろう。
2001年〜
 07/13 市内中 まばらだが かなり飛んでいる。07/17 五郎ヶ岡、魚見小、田良、木之下、宮など1週間前より 少なめに飛んでいる。7/20 魚見小、東方で 20〜30 飛んでいる。
 新しく山手に道路ができて,その道路沿いに急に増えたところもある。自然の状況と,人間が自然に手をかける度合によってもこのような変化が読みとれる。これからも,見続けなければならないオキナワスジボタルの変化である。
4.観察の結果 
 *卵は朽ちた木や落ち葉、また草の下の枯れ葉などに生む。
 *羽化した成虫は 暖かい時の昼間には木の葉などの裏に止まっており,11月頃になると昼間の余熱があるため夜は地面でよく見かけるようになる。
 *乱舞の後 数日後には1頭、2頭とだんだんと外に飛んでいく。 
 *成虫のオス、メスともかなり強い風の時や雨の時も,高く飛んでいる。風のない時や弱いときには停止し,ゆっくりと飛んでいる。また急に方向を変えたり早く飛んだりする。光かたも長かったり短かったりいろいろある。
 *成虫の大きさも,個体差がある。一年中,大小の幼虫が見られる。冬の少し暖かい夜などには 2ミリほどの幼虫だけが小さく,光りながらゆっくり動いている。餌を探しているのかもしれない。少し大きくなると,オカチョウジガイ、キセルガイ、アズキガイなどの空の貝のなかに,1〜3個体ずつ入っている。梅雨時の雨の後の夜にホタルが乱舞している場所では,たくさんの幼虫が,星のように光りながら周りに移動している。
 *新しい発見場所で,数頭確認すると半年後には,乱舞が見られる。その後にはホタルや巻き貝の数が激減する。
 上の表は,10月の温度とオキナワスジボタルの飛翔との関連を表したものである。温度が低くなると,飛ばないことが分かる。
 下の表は11月はじめのオキナワスジボタルの飛翔と温度との相関関係を表したものである。
 *従って,幼虫は寒くなると動かなくなる。冬に飼育ビンの中の幼虫を捕りだし触っても動かない。手や息で暖めてみると少しは動くようになる。ビンの中の幼虫も,空の貝殻の中に入っている。

5.オキナワスジボタルの生息環境
 
  
 
魚見小学校内 左が体育館裏で,右が運動場の魚見岳側
  
 
 
東方(グリーンファームの裏手)
 これ以外にも地図上に示した地区は,熱帯植物であったり,畑の土手であったりと,草置き場や落ち葉が積んであるところを中心に増えていることが分かった。